43 野外映画
43 野外映画
昭和八年の頃、国分寺から武蔵大和駅までを営業運転していた多摩湖鉄道(現多摩湖線)は狭山丘陵を切りひらき多摩湖駅(現西武遊園地駅)までの延長工事をしていました。
会社では、路線の宣伝とサービスを兼ね村山下貯水池堰堤の辺りで土曜日の夜、花火を上げていました。それと合せて武蔵大和駅の西北で、延長工事をする前は地つづきであった大久保家の屋敷神として祀ってあるお稲荷さまの広場で映画を上映していました。
毎週土曜日の午後になると鉄道会社の人が電車で運んできた丸太を組んでスクリーンを張ります。丘陵地で西に少し高くなってゆくので東向きにスクリーンをつくりゴザを敷きます。鉄道工事をしている工夫の人達も見るのでその人達の席もつくります。夕方になるとお稲荷さまと山ノ神(貯水池工事で東京都に買上げられた大久保家の山から移し祀った)の両方に会社の飯場でつくった赤飯や油揚、野菜や魚の煮付などを皿に盛り、会社の人が供え、暗くなると映画がはじまります。
電車、バスに乗って来た人はサービスとして無料、その他の人は入口で、入場券を買いますが二十銭位でした。当時人気のあった俳優は榎本健一、上原謙、岡譲二、入江たか子、高峰秀子、そのほか多勢いたようです。娯楽施設のない頃でしたので入場者はかなり多かったようです。"月よりの使者""エノケンのちゃっきり金太"などのときは座布団を抱えて坂を登ってゆく人が多かったようです。
映画が終ると会社の人がスクリーンをはずし後かたずけをして電車に積んで帰ります。野外なので寒い季節は休みます。昭和十一年多摩湖鉄道全線開通になる少し前の頃まで上映していたようです。
(p97~98)